kongaragaruのブログ

こんがらがると10回言ってみてください。こんがらがります。

あられもない祈り/島本理生

湿度の高い文章だ。直喩を多用し、その描写には匂いがある。そもそも彼女の本を読もうと思ったのは、前回借りていた宮本奈都の「初めからその話をすればよかった」という随筆の中で、島本の別の作品について解説(という名の感想文)が載せられていたからである。宮本は島本の「匂い」の描写について感嘆していた。柔軟剤の匂いやらの混じった匂いを「優しく育てられた匂い(みたいなこと)」と描写していることに、彼女はその匂いをそう感じ取るのか、と感心したというようなことが書かれていた。私もそんな描写をする島本のことが気になり、一度手に取ってみたわけだ。

本作でも早速匂いについての描写があった。「甘えた匂い」という表現だった。もしかしたら彼女は人物描写を匂いで表現することに、一種のアイデンティティを抱いているのかもしれない。文量は少なく、会話文も少ない。巻末を見ると、どうやら「ナラタージュ」の作者のようだ。映画化されていたのを、宣伝だけは何度も見かけた。ふんふんなるほど、確かにナラタージュと共通する湿度の高さを感じる。彼女の作品の中には決して製図室の1000Wの照明は出てこないし、途切れそうな白熱電球か家具のない部屋の間接照明が相応しい。

どだい、不遇な境遇の下に生まれた女というものに共感ができないのだ。そして拠り所を恋人に求めだしたりするのも理解しがたい。自分の足で立てばいいのに。好きなら好きと言って、嫌いな人とは縁を切ればよい。そんな簡単なことがどうしてできないのか。こんなことを思うから4年付き合った彼氏に簡単に別れを告げることができるのだろう。温度が低い。でも私以上に人間らしい人間もいないと思う。根拠はない。

思考と言動に合理性がないと納得できない。一定の基準を設けてそれに沿って他者を判断する。

 

こんな風に自分と違う境遇の人間に対して共感できないのは、読書量の乏しさと社会経験の貧しさに由来するのだろう。