kongaragaruのブログ

こんがらがると10回言ってみてください。こんがらがります。

銀河不動産の超越/森博嗣

1hもかけずに読んだ。なぜなら今にも降り出しそうな空の下、シーツを干したまま出掛けたからである。その結果は帰り道でミストのような雨を浴び、電話で兄に取り込みをお願いすることとなった。図書館では辞書でも引くようなスピードで頁をめくっていたため、周りからしたら迷惑な野郎だったに違いない。借りた時には人気のなかった図書館は、土曜日ということもあってか殆どの椅子が埋まっていたので驚いた。もしかして私が知らないだけで世の中はもう通常通りに運行しているのだろうか。今日も感染者数200人超えというニュースと、新宿から15分のこの街はひどく隔てられているような気がした。

 

さて、本作品は1話完結型のドラマ形式となっている。主人公は一貫しているのでオムニバス形式とは言えないが、各話違うゲストが出演し、最終的には全てが繋がるという形だ。どこかで連載でもしていたのだろうか、各話に「銀河不動産の○○」というタイトルが付けられている。

簡単に言うとまちの小さな不動産屋に就職した主人公が、ひょんなことから一軒家を借りて住むようになり、その家に来る様々なゲストたちとの関わりの中で主人公が変化していく話である。

森博嗣の小説というのは、主人公が大抵人より多少付き合いの苦手な典型的な理系男性なので親近感が湧く。建築出身なこともあり、空間の描写が細かく面白い。文体も淡々としていて読みやすい。実は「すべてがFになる」すら未読なので、彼の書く推理小説を読んだことが無いのだが、きっと読みやすいのだろうと思っている。そもそも推理小説にあまり興味が無いのだ。嘘だ。はやみねかおる夢水清志郎シリーズから読書歴が始まった人間が何を言ってるんだという話である。この話はまた今度。

 

キャラクターは皆魅力的で、不思議な人間ばかりが出てくる。どうも変な店というのは変な人間を呼び寄せる傾向にあるようだ。人間と同じく。キャラクターへの共感は難しいかもしれない。何しろ宇宙人と言われても納得できるような変わり者ばかりだからである。主人公は地球人だが、彼もまたこの不動産屋に招かれた宇宙人なのである。ちなみにSF要素は一切ない。

これは森博嗣の特徴でもあるのだが、起承転結が緩やかで淡々とお話が進む。この本に関しては一軒家を借りたのが起、様々なゲストの出入りが承、結婚話が転で、努力の自覚が結だろう。各話の中でも全体でもしっかりと展開するのだが、主人公の性格もあってかなんとなく緩やかなのである。とはいえのんべんだらりとしているわけではない。そういう文体なのだ。読みやすくて私は好きだ。

一方で努力で話をまとめる点にはモヤっとする。しかし思い返してみれば森博嗣の他の小説もそんな話だったような気がする。努力。その通りなのだが、もっと叙情的に言い換える表現はなかったのだろうか。その完結さが森博嗣の良さなのかもしれないが。あと最後まで銀河不動産がどうしてこうも忌み嫌われているのかわからなかった。私が猛スピードで読み飛ばしたところに書いてあったのだろうか。

話の内容自体はさくさく読めるが、森博嗣の描く空間がとても面白いので、じっくり読むことをお勧めする。

 

風の音がすごいので終わり。

帰り道に買ったカヌレを食べる。ミストの雨は湿度が低いので気持ちよかった。